衛星通信

【このページの最終更新日:1993年1月28日】

1. アマチュア通信衛星

アマチュア通信衛星は、色々なタイプ(機能)の物があり、おおざっぱに次の2種類のカテゴリーで 分類する事ができます。

(1) 超楕円軌道/円軌道に近い楕円軌道

[超楕円軌道]
地球の周りを超楕円軌道で周回するタイプのもので、一番遠い地点(遠地点)では地球の半面を見通 すことができる為、その範囲(ウィンドウ)にある地点同志でDX−QSOが可能。 一周するのに 時間がかかる事もあり、一地点から見てウィンドウが開いている時間が長く、また衛星の見かけ上の 位置(方位角・高度)の変化がゆっくりで、追尾(アンテナを衛星に向け続ける操作)も楽です。

[円軌道に近い楕円軌道]
地球の表面を這う様に、円に近い軌道で周回するタイプ。 当然衛星から見える地上の範囲(ウィン ドウがカバーする範囲)は狭く、交信可能範囲は狭くなります。 一周に要する時間が短い事もあり、 地上から追尾するのは大変忙しくなります。 カバー範囲は狭いが周回は早く、一定時間内には結果 的に地球全体を広範囲に飛来します。


(2) アナログ通信/デジタル通信

[アナログ通信]
電話(SSB・FM)での通信が可能です。 (1)のカテゴリーの両方のタイプの衛星が使用され ていますが、やはり何と言っても「超楕円軌道衛星」による安定したDX−QSOが目玉です。

[デジタル通信]
パケット通信が可能です。 e−mailを交したり、衛星が撮影した地上画像ファイルをダウンロ ードすることができます。 (1)のカテゴリーでは、主に「円軌道に近い円軌道」のタイプの衛星 が使用されています。 アナログ通信の様に、アクセスした局同志がリアルタイムに交信するのでは なく、ファイルの書き込み読み出しと言う方法でデータのやりとりをします。(空飛ぶBBS)


いずれの衛星も、アップ・リンク用(地上のハム局の送信用)とダウン・リンク用地上のハム局の受 信用)に異なる周波数を持ち、(ほとんどの衛星はそれらの組み合わせ=モードを複数持っています) 電波形式も衛星により様々なものを利用しています。


2. 衛星通信の楽しみ

アマチュア通信衛星を使った衛星通信は、数々のメリットをもたらしてくれます。

・HF帯の様な大規模の設備を必要とせずDX局との交信が可能。
→ 近所へのインターフェアの心配なし。 広い土地やタワーがなくても可。

・HF帯の様に固定局と移動局の設備で大きな差は生まれない。
 → キャンプ地のモービル等からも、固定局と全く同じ土俵でDX-QSOが可能。

・HF帯の様に電離層のコンディションに左右されず安定した交信が可能。
→ 日常の生活の中で計画的にDX交信を楽しめる。

・あらかじめ衛星の軌道を計算する事により、地球上の特定地域との伝播(ウィンドウ)を正確に予 知でき、その時間には確実に交信が可能。
→ DX局とのスケジュールQSOには最適。

・デジタル衛星を利用すると、世界中の局とパケットによるメール交換が可能、又衛星が撮影した画 像を取得する事もできる。
→ アマチュア無線版インターネット(?)


3. 現存のアマチュア衛星

アナログ通信衛星は、1996年に永年世界中のハムに愛用された長楕円軌道を持つAO-13が力 尽きて落下して以降、まともにDX-QSOに使えるものは、もはや断末魔のうめき声をあげつつい つ死に絶えるかわからないAO-10が残っているのみで、あとは円軌道に近い「せっかち」一部の 衛星で近隣諸国と短時間QSOをする以外ない状況で、近く予定されてる次期衛星(Phase-3) の打ち上げが望まれます。

(単位:MHz)
衛星名称ModeUP-LinkDOWN-LinkBeacon
-OSCAR-10-435.030--435.180145.975--145.825145.810
UOSATOSCAR-11--145.825, 435.025, 2401.500-
AMSATOSCAR-16-145.900, 145.920, 145.940, 145.960(FSK1200bps)437.026, 437.051, 2401.143(PSK1200bps)-
DOVEOSCAR-17--145.825(AFSK1200bps/Digital Voice), 2401.221(PSK1200bps)-
WEBEROSCAR-18-1265.000(AMTV/NTSC)437.075, 437.102(PSK1200bps)-
LUSATOSCAR-19-145.840, 145.860, 145.880, 145.900(AFSK1200bps)437.153, 437.126(PSK1200bps)137.125
FUJIOSCAR-20JA145.900--146.000435.900--435.800435.795
JD145.850, 145.870, 145.890, 145.910(AFSK1200bps)435.910(PSK1200bps)-
UOSATOSCAR-22-145.900(FSK9600bps)435.120(FSK9600bps)-
KITSATOSCAR-23-145.850, 145.900(FSK9600bps)435.175(FSK9600bps)-
KITSATOSCAR-25-145.870, 145.980(FSK9600bps)435.175, 436.50(FSK9600bps)-
ItmasatOSCAR-26-145.875, 145.900, 145.925, 145.950435.867, 435.822(PSK1200bps /FSK9600bps)-
AmradOSCAR-27-145.870435.800(300-9600bps)-
RadioSPUTNIK-10A145.860--145.900--
K/T21.160--21.200--
A/K-29.360--29.40029.357 29.403
T-145.860--145.900145.857 145.903
ROBOT21.120, 145.82029.403, 145.903-
RadioSPUTNIK-11A145.910--145.950--
K/T21.210--21.250--
A/K-29.410--29.45029.407 29.453
T-145.910--145.950145.907 145.953
ROBOT21.130, 145.83029.453, 145.963-
RadioSPUTNIK-12A145.910--145.950--
K/T21.210--21.250--
A/K-29.410--29.450-
T-145.910--145.950145.912 145.959
ROBOT21.129, 145.83129.454, 145.958-
RadioSPUTNIK-13A145.960--146.000--
K/T21.260--21.300--
A/K-29.460--29.50029.458 29.504
T-145.960--146.000145.862 145.908
ROBOT21.138, 145.94029.504, 145.908-
RadioSPUTNIK-15A145.857--145.89729.357--29.397 29.398 29.353


4. 衛星軌道データ (最新)

以下のAMSATのWebサイトのリンクから最新の衛星軌道データが得られます。

アマチュア衛星軌道要素(NASA 2行フォーマット)ダウンロード

アマチュア衛星の軌道要素(AMSATフォーマット)ダウンロード


5. 衛星通信の設備(当局の例)

上の一覧表からも推定できる通り、一口に衛星通信と言っても、目的(従って、どの衛星を使うか) や利用するモードによってその必要とする設備はかなり異なって来ます。 私は衛星通信をまず第一 義的に「固定局・移動局からのDX局との確実な交信手段」として位置づけていますので、AO-10に 代表される様な超楕円軌道を持つアナログ衛星の利用を基本にしています。 今後打ち上げが予 定されているPhase-3では、同じアナログモードでもまた一部異なる設備が必要となります。


[トランシーバー] YAESU FT-736(50/144/430/1200MHzオールモード・トランシーバー)

→ 送受異なるバンドが使える事、送信しながら他バンドの周波数をモニターし、 かつ送受周波数を単独に可変できる事が条件となります。 できればFT-736 の様に、サテライトモード(受信周波数を可変すると送信周波数もその分 だけ上または下に可変されるモード)を持っているものが望ましい(運用が圧 倒的に楽になります)また、雑音の多い環境で受信しますから、スピーチプロ セッサーが良く利き、音質もしっかり低音が出るものがFBです。


[リニアアンプ] 最大50W

→ 衛星には必要最小限のパワーでアップロードする様に心がけます。 過大なパ ワーは、衛星の電源を不要に食うだけでなく、衛星の受信系のAGCをドライ ブし、他にアクセスしている多くの局に大な迷惑をかけます。(AGCが利け ば、当然衛星側の受信感度は低くコントロールされてしまいます) 衛星の位 置や向きによって適切なレベルはどんどん変わって行きますので、実際に自分 のダウンリンクをモニターしながら、他のダウンリンク信号と比較して突出し ない様にパワーを押さえます。いずれにしろリニアアンプは必需品です。 (Phase-3では不要になる様ですが)


[アンテナ] 144MHz12エレクロス八木+430MHz16エレ八木2列2段

→ スピン(回転)の激しい衛星は、偏波面がめまぐるしく変わるので、普通の八 木アンテナではQSBが激しく、使いづらい事が多く、ほとんどの局がクロス 八木を使っています。 ただ144MHzをダウンリンクとしている衛星の場 合、地上局の違法局(衛星通信利用区分にも拘わらずFMで運用している局が 多数います)の混信を避ける為に、あえて水平偏派の八木アンテナを上げてい る局もいます。 アップリンク用のアンテナは普通の八木アンテナでも良い結 果がでます(スピンの激しい時はクロス八木にはかないませんが、普通の八木 アンテナの方が簡単にゲインを稼げるので、結果的にFBな事が多い様です)


[ローテーター] KENPRO KR5400B

→ 水平・仰角共動かせなければなりません。 低軌道衛星はみかけ上の動きが早 く、手動で追尾するのは大変です。 できればパソコンで自動制御するのがFB です。 下記「衛星自動追尾」の項をご参照下さい。


[受信プリアンプ] アンテナ直下型プリアンプ

→ 必需品です。 NF(ノイズフィギュア)の優れた物が必要です。この性能が その局衛星通信の能力を決めてしまうと言って過言ではありません。 HF帯 のDX通信と異なり、ほとんどの局が同条件にある中で、CQにコールバック している弱い信号を聞き取れずにまたCQを出している等、文字通り「天下」 に恥をさらしている様なものです。


[マイクロフォン] HEILダイナミックマイク、アスタチック・イーグルマイク

→ マイクは重要です。 実際にダウンリンクをモニターして、良く耳に聞こえる 音質のものを選ぶとFBです。 ハイファイな高性能マイクは、経験的にあま り向いていない様です。


以上の設備でAO-10でFBなQSOを楽しむ事ができます。(今はなきAO-13はとてもFB で、DX局と極めて安定したメリット5のラグチューを楽しむ事ができました。)


6. 衛星自動追尾システム (1) Instant Track


InstantTrackのメイン・グラフィック画面(AO-10を追尾中)


衛星軌道をリアルタイムに計算し、見かけ上の位置(方位角・高度)を算出する「衛星追尾ソフト」 はいくつか知られていますが、*N6NKF(Franklin Antonio氏)作のInstantTrackはその中でも傑出 したソフトです。 当局も、このソフトを永年愛用しています。

* Franklin Antonio, N6NKF
2765 Cordoba Cove
Del Mar, CA 92014 U.S.A.
(SASE needed)
CompuServe ID : 76337,1365

[必要ハードウエア]

 ・IBM/AT互換機。
 ・512KB以上の基本メモリー。
 ・EGA以上のディスプレイ。
 ・数値演算プロセッサーは無くても可(有る方が断然有利)。

[特長]

 ・計算速度が速い。
 ・世界地図・地球面のグラフィック表示が美しく精緻。
 ・NASA、AMSATフォーマットでの軌道データの一括取り込みが可能。
 ・NBSに自動接続し、CPUのクロックを自動修正する事が可能。
 ・200の衛星を登録可能
 ・ある衛星が他の衛星を視野内に捕らえクロス・リンクを実現するケースも計算。
 ・衛星のアンテナの向き(スクイント・アングル)を計算。
 ・インターフェースボードを介してアンテナのローテーターを自動制御可能。


(2) InstantTrackでローテーターを自動制御する

上記特長の最後の項の通り、このソフトでアンテナのローテーターを全自動で特定の衛星を自動追尾 する事が可能です。 この快適さは、使った事のない人にはわからないでしょう。二度とマニュアル 制御の世界には戻りたくなくなってしまいます。 特に見かけ上の動きの早い円軌道(低軌道)衛星 を使用する時は、自動追尾できるとできないとでは雲泥の差です。

[必要システム]

 ・インターフェース・ボード

 米国 * L.L.Grace社 の "Kansas-City-Tracker" インターフェースボードが必要です。ソフト に同梱の INTSPEC.TXT にインターフェースボード作成に必要な詳細な記述があり、 技術に自信 のある方は、自作も不可能ではありませんが、まず99.9%の方はこのボードを入手する事に なると思います。

* L.L.Grace Communications Products
41 Acadia Drive
Voorhees, NJ 08043 U.S.A.
Telephone:609-751-1018

 ・アンテナ・ローテーター

 基本的にはどのローテーターも使用可能ですが、一部の機種以外では、改造をしなければなりませ ん。 Kenpro/Yaesu の KR5400/5600 A/B 、または Emotator 700/800については改造不要です。 両者については、インターフェースボードとローテーター間の接続ケーブル(コネクタ取付済)ま で付属のものをそのまま使用できます。( Emotatorのみ簡単なピン変更の処理が必要)それ以外 のローテーターも、コントローラー側に改造を施す事で使用可能です。 改造方法も取扱説明書に 記述があります。(リレーを取付ける改造ですのでそんなに難しくありません。)


Kenpro 5400B

[オペレ−ション]

 インターフェース・ボードに付属のFDからドライバ、ユーティリティ等をインストールし AUTOEXEC.BATに必要なステートメントを追加した後、取扱説明書に従って校正・調整・テストを 行えば、自動追尾システムの完成です。 InstantTrack上で目的の衛星を表示している状況 (グラフィック画面)から、単にRキーを押すだけで、ローテーターの2つのメーター(方位角 仰角)が動き出し、InstantTrack で計算・表示されている角度まで来ると自動的にストップし ます。あとは、時間の経過と共に、勝手にずれを補正する様にそれぞれのローテーターをジワッ ジワッと動かしてくれます。  もう一度Rキーを押すと、追尾をやめます。 操作は全くもっ て簡単です。 当局は、InstantTrack専用にジャンクでただ同然で買ってきた386/20MHzの  DOS/Vパソコンを24時間動かしっぱなしで、ローテーター(Kenpro KR5400/B)を制御していま す。(通常AO-10を追尾しっぱなしです)  外から帰って来るとルーフタワーの上の衛星 用アンテナが「ジジッ」と音をたて動いているのに出くわし、思わずドキッとしたりします。 (Hi) (単なる電気の無駄遣いですネ!)



144MHz12eleクロス八木/430MHz16ele八木 2列2段/1200MHz48eleループ八木




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