真空管式1.9〜28MHz 100W SSB/CWトランシーバーの製作(MAFTR-38A)

- 2011年製作 -

【このページの最終更新日:2012年1月10日】


お恥ずかしながらアマチュア無線を初めてこの方40年、当局は未だにモガモガを一度も発生させた事がなく、モガモガを発生させたいと言う思いは常に持ち続けて来ました。 先日、最も懸案だったオールバンドAM/CW送受信機ラインが完成し、今度はいよいよ念願のSSB機に手を出す事にしました。

送受信機のセパーレートにするか、トランシーバーにするかについては、逓倍による周波数変換をを行わないSSBにおいては、トランシーバーにするメリット(トランシーブ操作、回路共用によるコストダウン、省スペース化)云々する以前に、送受信機にするメリットが余り無い、と言う事から、迷わずトランシーバーを選択します。

またSSBの発生方式については、近年の熱心なアマチュアの技術開発のお陰で、オールパスCRフィルターなどの新しい方式によるPSN式SSBジェネレーターが、従来のクリスタル・フィルターやメカニカル・フィルター式とは次元の違う素晴らしいSSBの生成を可能にしました。 しかし、1960年代の真空管式の世界で、AMから手掛けて来たMAFNET自作機工作室としては、まずは基本のメカニカル(クリスタル)・フィルター式のSSBを飛ばすわけには行きません。 しかし、フィルター式SSBのリグを製作後に、PSN式SSBのリグをまた一から製作すると言うのは、余りにも無駄が多過ぎます。 そこで、2つのSSBジェネレーターを内蔵し切替えて使える様にし、まずはフィルター式のジェネレーターだけでの全体の完成を目指す事にしました。

次にハード・ウェアの構成ですが、初めて手がけるのにオールバンド機にデュアルSSBジェネレーターと欲張った物は余りにも荷が重すぎます。 そこで当初は確実に動作する事と、V/UHFへの発展を考え、SSBトランシーバーの送信側から見るとVFOとミキシング直後のバンドパス・フィルターの所で前後を分割して、エキサイター部とオールバンド・ミキサー部を別々のケースに組む事を考えました。 この方式ですと、それぞれを個別にバージョン・アップしたり作り直す事ができるので、初心者にはグッド・アイデアではないかと考えた訳です。  

実際にエキサイター部とオールバンド・ミキサー+アンプ部に分けてブロックダイヤグラムと回路図を作製したのですが、「逆の発想」から結果的に両者を合体させたオールバンド機を作製する事になってしまいました。
@ 当局の場合実際に運用するのは99.9%が14MHzだけであること。

A ならば、いっその事14MHzモノバンド・トランシーバーにすれば製作はぐっと簡単になるし、そうすれば別にエキサイター部とミキサー+アンプ部を分離せずに一体型で問題なく作れそうだ。

B しかし、もし将来他のバンドにどうしても出たいと思った時、トランスバーター製作してを接続すれば使えるが、100Wのアンプが使えないのは如何にももったいない。

C ならば、マルチバンド化(オールバンド化)改造が簡単にできるように、あらかじめバンド切替スイッチを設置してやコイルスペース等を確保した上で、配線はあくまでも「モノバンド機」として、とりあえず14MHzだけ行って完成させたらどうか? すなわち「とりえあえずは14MHzのモノバンド機だが簡単な改造でオールバンド機にグレードアップできる」、または「オールバンド機だが、基本バージョンとして14MHzだけ完成したものとする」

D 大した差は無いようにも思えますが、実際問題考えるとレベル配分調整ひとつとっても、ぐっと楽になるはずです。 要は、モノバンド機の回路の途中に意味のない切換スイッチがあってその接点を経由しているだけと思えば良いのです。


最後に周波数構成ですが、フィルターの入手の問題と、スプリアス回避の確実性などもあり、過去のメーカー製トランシーバーの周波数構成を比較検討しました。



これが往年の名機、YAESUのFT-200、FT-400、TRIOのTS-510の周波数構成です。(メカニカル・フィルター機はIF周波数が455KHzと低くなり、イメージ比獲得で苦労しそうなので除外しました)
FT-200はプリミックスVFOですが、いずれにしてもヘテロダイン関係が面倒くさい。 水晶ケチってたりして、和のヘテロダインを取ったり、差のヘテロダインを取ったり、ダイアルは逆ダイアルになるバンドがあったりと複雑! また、FT-400はVFOが8MHz台と高いのが気になります。 これは性能とは関係ないけど、ヘテロダイン関係が全部「差」なので計算しにくい!(笑)
一方、TS-510はVFOは5MHz台だし、FT-400とは逆にヘテロダイン関係が全部「和」になっていて分かりやすい!

と、言う事で、結局TS-510の周波数構成を採用する事にしました。




エキサイター部のブロック・ダイアグラムです。 最初はエキサイター部とオールバンドミキサー+パワーアンプ部のセパレート型を考えていたのでブロック・ダイアグラムも回路図も、8.3〜8.9MHzのIF周波数で送受信号の受け渡しを行う形でセパレートとなっています。 (図面上も実際の製作上も、ここでスパッと綺麗に分断できて、独立して完成している事が結構大事かもしれません) 
完成後の次期計画としてPSN式にも使える様に、2つのSSBジェネレーターを切り替えられるようにします。




こちらがオールバンド・ミキサー+パワーアンプ部のブロック・ダイアグラムです。 
一応3.5〜28MHz帯のオールバンド(WARC含む)を考えています。 今まで製作した送信機はすべて10W出力でしたが、今回は実戦機として不足がないように100Wとします。

エキサイター部もそうですが、特殊パーツ(特にフィルター関係)の事を考えて、両機の周波数構成の手本としたTRIOのTS-510ド・ジャンクを探して入手する予定です。
50MHzや、場合によってはUHF帯については個別のトランスバーターを別途計画しようと思っています



これで構想がほぼ固まったので、具体的な回路設計を行いました。



こちらがエキサイター部です。




こちらが、ミキサーとパワー・アンプ部です。 エキサイター部とはバンドパス・フィルター(8.8950MHz〜8.3950MHz)で信号の受け渡しを行います。  
どちらも「着工時」の図面なので、製作の過程で変更が加えられて行くと思います。(最終回路図は、当機が完成した段階で、最終版として掲載することとします)


 周波数構成をかつてのTRIO TS-510の物を採用した関係で、クリスタル・フィルター(SSB/CW)を入手する為に同製品のジャンクをオークションで手に入れました。 その為、フィルターに限らず、IFTなどの多くの使えそうな特殊パーツを手にする事ができました。

 この多くのジャンク・パーツを生かそうとした結果、好むと好まざるに関わらず、回路も随処にTS-510の回路をパクらせてもらう事になりました。

 VFOはダイアルメカと共に、TRIOのTS-510のVFOユニットをそのまま利用しました。

 オプション(要は後で製作すると言う事)でPSNのジェネレーターを組み込み、フィルター式と切替使用ができるようにしました。




さて、いよいよ製作開始です!




ヤフー・オークションで、いにしえのトリオTS-510(100W機)とPS-510(電源内蔵スピーカー)のジャンクを11K円で入手しました。 従って回路もTS-510の回路がベースになっています。 特殊なIFTなどがそのまま活用できる等のメリットが生かせるからです。 これにより製作は大変楽になるはずです。




100W級の電源トランスの重さにも耐え、かつオールバンド切替機構まで収容できるスペースがあり、かつ放熱孔が開いている真空管用機器のケースと言うと、もはやこの世にはほとんど選択肢が存在していない事を思い知りました。
40年前の学生時代に4CX350 4パラのリニアを自作した時に使った懐かしいケース、アイデアルのUL-40です。(リニアは本体と電源部と別々で、このケースを2台積み重ねて使いました) 
価格が16,000円ほどするのがちと痛い(笑)が、とにかくまだ製造していてくれたのには感謝、感謝!  しかしでかい! しっかりとした信頼のおける造りです。 鉄製シャーシ・ケースですので加工は大変です。




ジャンクのTS-510から取り外したVFOとギアダイアル・ユニットを分解して、ピカピカに清掃。 まず はこの取り付けから始めました。(面白い始め方だ・・・あはは〜〜) 鉄シャーシは硬い! 古いハンドニプラーが応力に耐えかねて加工中に壊れてしまいました。 急遽曲線切断用 のジグソーの刃を買ってきてジグソーで穴あけしました。




ファイナル・シールドボックスとソケット(6146パラ)、電源トランス、チョークを取り付け、パネルにダ イアルの軸穴とスケール用の窓を開けて、ダイアルを取り付けてみました。 大物重要部品を取付けたので、早くも完成後の雰囲気が見えて来ました。




ヤエスの40年前のSSB送信機、FLDX-400のジ ャンクから取り外したバンドスイッチ・・・ ううう、あまりにも腐っていて汚い!!! 年季の入ったこのバンドスイッチでは接触不良・絶縁不良の権化! 分解して、威力絶大の高価な接点復 活剤Deoxit(D5)で各ウエハーを一枚一枚ピカピカに復活・磨き上げました。 このバンドスイッチを、本機の回路に合わせてウエハーの構成や位置を決定して組立なおします。




ピカピカになったバンドスイッチを、本機の回路に合わせてウエハーの段数や取付位置を決めて、更に段 間シールド板を作ってそれを挟み込みました。 隣の真鍮のシャフトはDRIVEチューン用のバリコン二つ(ミキサー段とドライバー段)を連動回転させる為のも ので、そのシャフトにつけたスプロケットとチェーンで駆動する為ののバリコン2個の絶縁加工が終わったとこ ろです。 回路上、バリコンはグランドから浮かさなければならんのですが、取付方法を一晩悩んだあと、基板 に取付け(端子をハンダ付)たモノをスペーサーで浮かしてシャーシーにビス止めする事にしました。



一番面 倒くさいバンドスイッチ周りと、シルード、終段同調バリコンのメカニズム等の板金加工を一気に進めました。 VFOメインダイアル同調メカはTS−510のジャンクを活用しましたので、さすがにトランシーバーらしくな ってしまいました。 このダイアルメカは、当時ヤエスのFLDX−400の1回転25KHzのダイアルメカ と並んでタッチ・フィーリングが気に入っていたもので、とうとうこれで40年経ってやっと手にする事ができ たと言う訳です。




これがチェーンを使った同調機構です。(シャーシ上の終段同調VCと、シャーシ下のDRIVE同調VC) 結構スムースに具合良く回っています。





絶対優先のメカニズム(バンド切り替え)ができたので、これを前提にパネルデザインを一気に決めてしまいま した。 メーターとダイアルの照明の電球を外部電源で点灯させて、仕上がりの様子をシミュレート?してみました。
パネルにはまだ実際にレタリングした訳ではありません。 仕上がり最終形を確認し、操作機能などを検討する為に、撮影した写真に画像編集ソフトで簡易的に文字 を挿入しみたものです。 大体こんな感じに仕上がると言うイメージです。

マイク・ジャックがありません。本来ならヘッドフォン・ジャックの場所に並べて設置したい所ですが、穴あけ 時に忘れてど真ん中にヘッドフォン・ジャックの穴を開けてしまい、バランス良く穴を開ける位置がなくなって しまったので、ケースの後ろ側に設ける事にしました。(もともとCWキーだって後ろなんだし、マイクも後ろ で都合悪い事は特に無いので・・・)





パネル・デザインを決めて、見栄えを検証しましたが、ダイアルだけでなくメーターまでTS-510のパーツをその まま使うのはいかにも芸が無い!(笑)と言う事で、メーターパネルをオリジナルの物を作製し入替える事にし ました。 特にマルチメーターのファンクションとして、HV(高圧電圧)表示は意味がないのと、Sメーターはやはり9+領 域は赤でないと直感的になじまない、などの不満もあったので、潔くメーターパネルの改造?にとりかかりまし た。

(左) メーターからパネルをはずしてスキャナーで取り込みます。 その画像を画像レタッチソフトを活用して編集を 行います。 この作業はちょっとテクニックやノウハウが必要かもしれません。 自分の好きなパネルが完成し たらフィルムシート(裏面が粘着テープのもの)に印刷をします。 下に置いたオリジナルのパネルと比較した ところです。

(中) 印刷したフィルムシートをメーターパネルに合わせてカットをし、パネルに貼り付けます。(気泡が入り込まな いよう注意が必要です) カッターではみ出し部分などを綺麗に修正カットし、取付ネジ穴はドリルの刃で穴開 けしておきます。

(右) 完成したパネルをメーターに戻したところです。 これで見事、新オリジナルメーターが完成です。 やはりメーターはいつも見つめるところですから自分の嗜好にこだわりたい所です。




さて、いよいよシャーシーに真空管とIFTの穴あけ作業です。 これでこの機器の成否が決まると言って過言ではないと思います。

入出力インピーダンスが高く誘導・回り込み・発振しやすい真空管を使った機器の性能は配置で決まる。
そしてその配置決めのチャンスは一回限りで穴あけ加工の後は決して元には戻れない。

真空管機器の一番の難しさはここにあるとつくづく思います。

ブロック・ダイアグラムとにらめっこで、信号の流れを良く考えながら真空管ソケット、クリスタル・フィルタ ー、IFTを並べて行きます。 鍵となる大物パーツはこの3点です。 部品の細かい向きとか相互の距離は、回路図とにらめっこで配線のイメージングをしながら最終確認を行いま す。 とりあえず決まったら、本当はここで数日間にらめっこと再確認を繰り返し、より良い配置などを検討した方が いいと思いますが・・・・ 短気のワシの場合は、え〜〜〜い、男の子!!と元気良く、サインペンでマーキングをし、定規を使って部品位 置のセンター出しをして×印を描いて行きます。 描けたら、気変わりしたり悩んだりするのを避けるために (笑)一気に×印にドリルでとりあえず3.5mm位の穴をすべて開けてしまいます。 も〜〜元には戻れません。 ホッとする一時です。あはは〜〜〜




トランシーバーの自作で一番大変なのが、バンドスイッチ周りのメカニズムの製作と、あとIFTの製作ではない かと思います。 IFTの製作はシールドケースが必要な事から、どうしても市販のIFTを改造するしか方法がありません。 ならば と言う事で、本機ではジャンク部品調達の為に入手したTS-510に使われていたIFTを活用するのですが、これが また問題有り!  TS-510では真空管機器でありながらプリント基板が使われていた為に、このIFTも基板取付 用となっているからです。

散々悩みましたが、一番確実で簡単で、かつ余分なスペースを取らない方法が、シャーシーパンチで7PのMT真空 管用の穴を開け、IFTの脚をシャーシの裏側で折り返し、シャーシにハンダ付する方法でした。 この時ばかりは加工が大変な鉄シャーシのお陰でです。(アルミでは簡単にはハンダ付できませんもんね) 機械的にもガッチリと付き、強度的問題なしです。 もちろん事前にIFTはすべて一度分解し、中の配線を良く確認して、端子番号を回路図に書き入れておかなくて はいけません。 取り付ける方向もそれがないと決定できません。 クリスタル・フィルター(SSB用とCW用)も無事取付完了しました。




真空管ソケットを全て取付け、真空管を挿しました。 また、IFTに加えバンドパス・フィルター(蛇目基板にTR用IFTを3個直列に取付けた物)、リレーなど、シャーシ面上 の主要パーツの取付が完了しました。  終段タンク回路内の主要部品取付けと板金加工も終わりました。

電源トランスを取付けると、死ぬほど重たくて裏返すとか横にするのもままなりません。最後の最後に取り付け る事になりそうです。 完成後も簡単に取りはずせるように、配線を端子盤を経由させる形にしようと思います。

IFTの周りのシャーシが黒く円状に変色している箇所がありますが、これはドジをこいた痕跡です。 表面処理 をしてる鉄シャーシなので、表面を軽くやすりがけしてからハンダ付けすれば簡単にハンダが乗るのに、最初は その事に気が付かず、100Wの半田ごてでもハンダが流れてしまうので、よせば良いのにバーナーで加熱したとこ ろ表面処理のメッキが熔融して変色してしまったモノです。(笑)




終段回路シールドボックス内の加工と配線をほぼ済ませました。 バンドはとりあえず14MHzだけ配線して置きます。 他バンドの配線するのは訳ないのですが、最初はあくまで もモノバンド仕様で完成させるようにして、問題の発生を最小限に抑えて成功を期します。 シャーシ後部のコネクタ類の取付も終わりました。 
これでこのトランシーバーの外観はレタリングを除いて完 成した事になります。 板金加工を終え、主要部品の取付も終え、前後のパネル上のパーツも全て取付ましたので、いよいよこれから内 部配線作業にとりかかります。(何を造るにしても、真空管式機器はここまでが長くて大変です。 ここからは じっくりと楽しみながら口笛でも吹きながら進められる工程です。)





パーツが揃わなかったりでちょっとスローペースになっていますが、電源周りがほぼ出来ました。  本格的なメンテナンス時に、重たい電源トランスを簡単に取り外せるように、トランスからのリード線全15本を、一旦端子盤で受けるようにしてあります。


【お知らせ】
ここまで来たところで、しばらく製作を中断せざるを得なくなってしまいました。 南太平洋の島国フィジーで、人生最後の仕事にチャレンジする事になったからです。 せっかくこれから!と言うところの作りかけで数年間「お預け」になってしまいました。 また帰国した時の楽しみに工作室にそのまま置いておきたいと思います。(2012年1月10日)




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