BOEING747-400操縦体験記
− 1998.5.28 −
【このページの最終更新日:1998年6月8日】
1. 夢にまでみた BOEING747-400 の操縦
本物のジャンボジェットを遂に操縦する機会を得ました! と、言ってももちろん操縦訓練用のフラ
イトシミュレーターです。(笑) でも、ご存知の通り1機25億円するジャンボ機のシミュレー
ターは、中の装備もネジ一本に至るまですべて実機と同一であり、すべての操作、挙動も実機と全く
同じであり、現役パイロットの定期訓練(試験)に毎日フル・スケジュールで使われています。
ありとあらゆる気象条件・飛行条件を設定で、実機では練習困難な場面はむしろこのシミュレーター
で再現して訓練する位です。
シミュレーター全体が大きな複雑な油圧ジャッキの上に設置されており、操縦によりシミュレーター
全体が大きく傾いたり一方向にすっ飛んで行ったりして(もちろん外から見てないと見えませんが)
中に搭乗していると、振動・音・重力の移動など本物の飛行機に乗っている時と全く同じ様に感じる
事ができます。(乗り物酔いする人は薬を飲んでから乗らないと酔ってしまいます!) 実際に乗っ
てみて、そのリアルさには驚嘆するばかりです。(目をつぶっていれば本物と区別は不可能です)
各航空会社は、この様なシミュレーター(もちろん機種別)を訓練センター等に何台も設置し、日常
訓練や、定期技量試験、昇格試験などに利用しています。 今回、我があこがれの日本航空(JAL)の
フライトシミュレーター(BOEING747-400最新型機)に、体験搭乗させていただく機会を得ました。
日々、パソコンの「フライト・シミュレーター」に没頭し、一年前に初めてセスナ機(これは実機)
で初操縦体験をさせてもらった事があるだけの私にとって、これがどれだけ発狂寸前・興奮絶後の機
会であったかは、想像いただけると思います。 なにせ、何をやっても命には別状無いと言うだけで、
あとは実機のジャンボ機を操縦するのと何ら変わりが無いのです!
搭乗させて頂く機体はボーイング747-400(ダッシュ400)になる、と言う連絡を予定日の2週間前に
聞かされ、胸の鼓動は狂わんばかりでした。 ダッシュ400と言えば、ジャンボの中でも機械式の計器
を可能な限り排除し、カラーのマルチ・ディスプレイを6面搭載し、最大限にコンピューター化を進
め2メン・クルーを可能にした最新鋭機です。
10年程前に、仕事の関係で企業視察団と言う名目で
(その時はわずか10分程度でしたが)日本航空のフライトシミュレーターに初めて搭乗させて頂いた
事がありましたが、その時は同じジャンボでも「旧式」のダッシュ300でした。 第一、あの時は今程
飛行機の知識も経験(?)もなく、「何とももったいない事をした」と悔やんでいたところでしたの
で今回は万を次しての最新鋭グラス・コックピット機への初体験です。 ここ数年来の飛行機に対す
るどうにも止まらない入込み、散々行ってきたマイクロソフトのソフト「フライトシミュレーター」
を使ったパソコン上での「操縦技術習得」、昨年の一月に始めて体験したセスナ機の操縦など、こち
らの「受入態勢」はもはや万全です。 眠れない夜を何晩も過ごし、1998年5月28日は遂にやって来ま
した。
2. Flight Simulator BOEING747-400 との対面
約束していた夜8時に、羽田にある訓練施設の中に入り、訓練をお願いしていたH機長を尋ねると、
副操縦士昇格試験の公表の最中との事。 多分そのフライトシミュレーターを使って実技試験をした
後の公表なんだろうと思うと、身の引き締まる思いです。 H機長が通常の業務を終えられた後お相
手頂く訳で、本当に機嫌良く迎えていただけるのだろうか、もしかしたら10分かそこら適当にあしら
われて追い返されるのでは、と不安になります。 とにかくシミュレーター室に入って機長が来られ
るのを待つ事にしました。 あるある....すごい! でかい! 部屋に入り階段から見下ろすと真
っ白な巨体が2つ設置されていました。 頂上部にごつごつした機器がいくつも取り付けられています
が形状から窓の外の景色を投影するパノラマ・ディスプレイ用のビデオ・プロジェクターであるとす
ぐにわかりました。

BOEING747-400シミュレーター BOEING737シミュレーター
ご案内をいただいたOさんが、手前のがこれから搭乗する747-400、向こう側に
あるのが737であると説明を受け、とりあえず747-400の中に入ってみました。




お〜〜....!! これです。 以前、福岡に飛行機で出張した時(全日空の747-400でした)、
機内であまりしつこく質問をした為(スチュワーデスを通して)「着陸後コックピットに来る様に」
と機長から命ぜられ、これはてっきり怒られるのかなとドキドキしながらお邪魔すると、大歓迎して
迎えてくれて機長席に座らされてしまった時に始めて対面したコックピットがそこにありました。
「ああ、あの時の全日空の相馬機長は本当に優しかったなぁ」と感慨に更ける間もなく、目の前にあ
る計器やスイッチを顔を近づけながら舐めるように見ます。 雑誌に掲載されているコックピットの
写真で見取ることのできない細部が、現実に目の前にあり、次々に疑問点が明らかになっていくのに
興奮を抑えるることができません。 10分もそうしている内に、もう胸は一杯...「もう、今日は
これで満足。(操縦しなくて)これで帰ってもいい!」等と感激とも弱気とも取りかねる発言をして
しまう自分がもはや冷静で無いことを悟りました。

後席の左に見えるモニターがこのシミュレーターの設定装置
ところで、今日は「カメラマン役」の渡辺さんと共に来訪。日本航空の地上勤務をされているOさん
と3人での搭乗です。 Oさんには、今回の企画については全面的にお世話になり、今日もフライト
シミュレーター側のコントロールCPUの諸設定を担当して頂くことになりました。幸いにも、コック
ピット内には後ろに2座席ありますので、丁度定員一杯と言ったところです。
3. フライトコンピューター(CDU)へのデータ入力
遂にH機長が来られました。 ニコニコと優しそうな笑顔で「お待たせして申し訳ありません」と丁
寧にご挨拶を頂き、「な、な、なんと言うもったいない、大それたお言葉を...」とまた感激。
どうして機長ってみんなこんなにやさしいんだろう。 今までお会いしたどの機長も皆やさしく穏や
かで男が惚れてしまいそうな男でした。 やはり厳しい訓練を通り抜けてきた偉大な方々達のみが持
てる身からにじみ出る人間性なんだなぁと改めてパイロットにあこがれてしまいます。 やたらペコ
ペコして名刺交換を済ませ、お互いにスーツの上着を脱ぎました。副操縦士側の席のすぐうしろの壁
が小さなクロークになっていました。(こんな事は雑誌には絶対紹介されていない、等とくだらない
ことにも感激...)
スーツをクローク内のハンガーにかけ、「ではとりあえず座りましょう」と私は左側の機長席に、H
機長は副操縦士席に座ります。 前にも座ったことだけはあるけど、まず体を入れるだけでも大変。
オーバーヘッド・コンソールに頭をぶつけない様に、エビの様に身をかがめながら、息を止めてとに
かく着席。 座席の右下に前後・上下にシートを移動する為の電動モーターのスイッチがあります、
その位置もわからずに不自然な体制のままH機長の指示を待ちます。
「さて、どの様なコースを飛びましょうか?」とH機長に尋ねられ、迷わず「羽田のランウェイ34L
から、座間デパーチャで富士山へ向かう形で...」と応えると「あぁ、そうですね。 福岡まで
行きますか。」 ええっ! 福岡までフライトすれば少なくとも1時間半! そこまで腹をくくっ
てお付き合いしてくれるつもりなんだ! でもそれでは時間がもったいない、もっと色々やってみた
いし。 と言うことで、「富士山からレフト・ターンして館山を回ってランウェイ34Lに戻るののはど
うでしょうか?」とH機長に進言、「うん、それはいいですね!」と最初のコースが決まりました。
何の事はない、いつもPCフライトシミュレーターで練習しているお決まりの自分のコースに強引に持
って行ってしまいました。

Oさんが、フライトシミュレーターに諸条件を設定
H機長がさっそく正面パネル下、スラストレバー右上にある副操縦士席側のCDU(コントロール・デ
ィスプレイ・ユニット)を人差し指一本でピッポッパッ、ピッポッパッとエンルートの設定を開始。
その巧みさに呆気に取られてただ覗き込むばかりです。 ディスプレイ両サイドにあるファンクショ
ン・キー(項目選択キー)とテンキー+アルファベット・キーで、フライト・コンピューターへのデ
ータ入力を続けます。


CDU(コントロール・ディスプレイ・ユニット)に、まず現在位置を入力
IRS(慣性航法装置)の基準となる現在位置(経緯度)の入力から始まるのですが、主要な空港の各
スポットはメモリーしてあるとの事で、ワンタッチで設定。「ここ間違うと大韓航空機撃墜事件です
ね」と思わず言うと、「そうですね。」とH機長。 滑走路はシミュレーターの方のコントロール
CPUに34Rならメモリーしてあるとの事で、34Lから一年前に開設したばかりの海よりの新滑走路34Rに
変更。 悲しいかな、マイクロソフトのPCフライトシミュレーターのシーナリーにはまだ34Rは入って
ないんだよな...ま、一本右に降りればいいんだからいいっか、とこれは独り言。 早くも左から
33、34L、34Rと三本の滑走路が並ぶ中のアプローチの場面を想像。

入力したウェイポイント。 このマップ通りにオートパイロットで飛ばせる。
4. エンジン始動
「これでやっとエンジンをかける前までの準備が整いました」とH機長。 本当だったらここでタワ
ーからエンジン始動の許可をもらって...」と、H機長はオーバーヘッドパネルを見上げながら次
々にパチパチとスイッチを入れていきます。 その押すスイッチの数の多いこと! ダッシュ400は
エンジンのオートスターターを装備してるので、エンジン始動はワンタッチで(まぁエンジンの数だ
け操作は必要だが)できるもんだと踏んでいたのが、のっけっからキツネにつままれてしまう始末。


オーバーヘッドパネルのスイッチを次々に操作
ひと通り操作を終えると、H機長はダッシュパネルの上に置いてあった、エンジン始動前チェックリ
スト(Before Start Check List)を取出し、諸設定をひとつずつ確認。 例えシュミレーターであっ
ても、そしてH機長の様な超ベテランパイロットであっても、必ず確認するんだな、と洗練されたシ
ステマチックなプロの仕事にまた感心。

チェックリストで確認

エンジン始動前チェックリスト(Before Start Check List)
4本のスラストレバーの下のセンターペデステル最上部に丸い取っ手がついたジョイスティック状
のスイッチが4本あり、オーバーヘッドコンソールのスイッチ群の操作を一通り終えたH機長が第4エ
ンジン(進行方向一番右のエンジン)スタータースイッチを入れながら「その一番右のレバーを上げ
て下さい」と指示。 うっ、上がらん! 「引いてあげて下さい」あ、そうか、不用意に触って動
かすことの無い様に、レバースイッチの動作は常に引き上げて倒すんだった、と既に普段の一割頭に
なっている自分を発見。 6面あるカラー・ディスプレイの内、常にエンジン情報を表示し続ける真
ん中のディスプレイ(EICAS)の中に第4エンジンのパワー(パーセンテージ)と回転数(二軸あるター
ビンの回転数N1,N2)がぐんぐん上がって行くと同時に聞きなれたエンジン始動の音が鳴り響きます。
「機体」もわずかに振動を始めました。
5. 座席ポジションのセット
すべてのエンジンを起動したところで、H機長はシートベルトを締めて座席の位置の調整を始めまし
た。 私に何も指示が無いのでポカンと口をあけてうろたえていると、シート移動のスイッチの位置
を教えてくれ、横から私を見ながら適切なポジションを指示してくれました。 「えっ、そんな前ま
で?!」と思う位いフロントパネルにかぶりつき状態まで誘導されびっくり。 シートも想像以上に
上に上げられました。「なる程、これは視界がいい!」と感心。 そう言えばPCでのフライトシミュ
レーターではパネルがじゃまでアプローチ時など特に前方が見えずに苦労しますが、なんだあれはち
っとも実機をシミュレートしでなかったんだと、納得すると共にホッと一息。 実にいい視界です。
ところで窓の外のビューは素晴らしいの一言につきます。 地上の景色そのものはマイクロソフトの
PCフライトシミュレーターの方が精緻に描かれていますが、肝心のランウェイそのものはこちらは実
にリアルです。 何よりも180度に渡って美しく明るいカラーでのパノラマ・ビューは圧巻です。
ビューが実に広く立体的で、自分のおかれている状況が極めて正確に把握できます。 PCフライトシ
ミュレーターだと画面の細かさばかりが気になりますが、肝心な3次元空間のリアルさが全くないの
で、そんな事に気がとられてしまうんだと、これもまた納得。
さて、次にシートベルトを締めようとするのですが、なかなかベルトが引き出せません。 車の2点
式ベルトと似たようなものなのですが、どうやってもロック状態で、ベルトの長さが引き出せないの
です「こうやってここをこう伸ばして引っ張れば」とH機長。 なんだこんなことすらできないでこ
れからどうするんだ! と焦れば焦るほどとにかくできない!! ううっ、情けない!! 見かね
たH機長が「私がそちら側にすわりましょうか?」と優しく声をかけてくれる始末。 ん、待てよ?
席を替わるなんて、いやだ!! こっちはなんたって機長席なんだ! ゆずってなるものか! と決
して声に出しては言えない叫びに歯を食いしばって格闘。 やっとベルトが伸びて一件落着。 しか
し早くも多大なエネルギーを消費してしまいました。

6. タキシング "Taxi and Hold Short of Runway-34R"
いよいよ準備完了です。 シミュレーターの設定はランウェイ34Rの入り口の少し手前で、タクシ
ー・ウェイ上を離陸と逆方向を向いたところから始まりました。 「ではブレーキをしっかり踏ん
で、パーキングブレーキをはずして下さい」と、H機長。 パーキングブレーキはスラストレバー
のずっと左側のちょっと床に向かって下がったところに小さなレバーがちょこんとあるのがそれ。
なんと人差し指で引っかけて手前に引き上げるだけ。 これがこの巨体のパーキングブレーキとは!
ブレーキを両足でぐっと踏みつけると、自動的にポンとはずれました。
「では、タキシングを開始して下さい」とH機長。 高鳴る胸を押さえつつ、スラストレバーに手を
かけます。私の手は大きいので人差し指から小指までがちょうど4本のスラストレバーの窪みに合致
し、無理なくホールドできます。 H機長は、どのくらいパワーを出したらいいか、タキシング速度
はどの位かなど何も言いません。 そろっと少しずつスラストを入れて、直線で15から20ノット、曲
がる時は10ノットにすればいいんだ、とこの辺は予備知識を思い起こす余裕があり、よし、機長を失
望させない様に見せてやるんだ、とスラスト・レバーをじわっと前に押しました。

う、動いた!(当たり前だ!!)巨体ジャンボがのそっと言う感じで動き始めると同時に路面の振動
が伝わってきます。 大型機のタキシング中の舵取りはラダーではなく左前方の壁にあるチラーと言
う電車や貨物列車の非常手動ブレーキの様なハンドルを回す事は分かっていますが、操作した事はな
いし(PCフライトシミュレーターには無い!)どの程度でどのくらい反応するのか、だいたい左手で
うまくコントロールできるだろうか?と不安なまま、ぐりっと操作してみると、巨体ジャンボが「よ
たっ」ととてつもない慣性とロールを感じながら首を振りました。 手を離すとぐいっと直進位置に
戻ります。 なるほどこれならなんとかなるぞ、ラダーより全然やりやすい! 「前のギアには荷重
がほとんどかかっていないので、雨の日なんかは良くスリップするんです」とH機長。 タキシー・
ウェイの終わりが近づき、スラストを心持ち絞って、ラインに沿ってぐいっとチラーを左に回して、
「Hold Short of Runway-34R」を完了。

"Hold Short of Runway34R" 完了。左側の離陸方向ランウェイを確認。
窓の外のビューは実に素晴らしい! 正面のスクリーンに写っていると言うのではなく、
顔を前に出して覗き込むと、機首の下のビューも覗け、現実との違和感が全くない!
「そのまま行って下さい」とのH機長の指示で、更に進みもう一度左にぐいっとやると、なんとかラ
ンウェイのセンターラインにほぼアライン完了。

ランウェイに正対
ブレーキはラダーペダルの上の端を(両足とも)ぐっと前に踏み倒す感じ。 重いが効くと強烈に効くの
で搭乗者が気持ち悪くならない様にじわっと踏んで静止完了。 この辺のブレーキを踏んだ時のつん
のめる様なショックも、フライトシミュレーターは完璧に再現します。
7. 離陸 "Cleared for Take off Runway-34R"
「スラストは、ほぼ垂直位置まで押して下さい。 オートスロットルを入れてありますから、エンジ
ンパワーが上がってきたのを(EICASのディスプレーで)確認したら、この黒いレバーを下に押し下
げて下さい。あとは自動的にパワーがセットされます」とH機長。 ん? なんだ?それは初耳だ。
言われた通りにスラストレバーの前側を覗き込むと確かに黒いレバーが2本立っている。 スラスト
レバーに手のひらを載せたまま人差し指と中指でぐっと押し下げる形になっています。 これがゴー
アラウンド(着陸やり直し)や離陸時の為の TO/GAレバーだとは、後になって分かった次第。
躊躇するまもなくH機長の「じゃ、行きましょう。 Cleared for Take off! 」との声にスラスト
レバーをぐぐっと押し出す。 うぉ〜!!来た来た! シートに体が押しつけられます。

"Cleared for Take Off"
若干センターラインからずれているのに気付き、今度はラダーペダルを使って進路を調整。 これは
PCフライトシミュレーターで散々練習してきた甲斐あって、猛烈な加速中にも拘わらず冷静にコント
ロール成功。「はいもういいですよ。押して下さい。」そうだ、オートスロットルだ! 黒いレバー
をぐっと押し下げるとオートスロットル・オン。ぐんぐん加速して行きます。 実機の直進性はすこ
ぶる良くPCフライトシミュレーターで右へ左へオタオタ振られ、ラダーと格闘する様な事もなく、な
んとかうまくいきそうです。 「...V1....VR、はい、起こして下さい。」

右の窓の向こうにランウェイ34Rのセンターラインが見えています
V1までは、何かトラブルが発生したら全制動をかけて滑走路内に停止する為にスラストレバーに手を
置き、V1に達したら何があっても飛び立つ以外に選択がないので、両手で操縦桿を持つ、なんて言う
予備知識はどこかに吹っ飛んでしまい、オートスロットルを入れた瞬間に両手で操縦桿にしがみつく
有り様。 かなり重い操縦桿を引き起こす(ローテーション)と巨体ジャンボはゴリッと最後のタイ
ヤが路面を蹴る振動を伝えて急激に機首を上げます。 今シミュレーターを外から見たらこの大きな
箱全体がぐらっと動いているんだろうなぁと思いつつ、目はPFD(プライマリ・フライト・ディスプ
レイ)に釘付け。 「機首は20度位に押さえて下さい」と言うH機長の声に、操縦桿を前に若干倒し
ます。 重い! 何をやっても重い! エアスピードも順調に上がって行くし、無事離陸は成功。
8. フライト・コントロール
ランウェイ34から上がったら、すぐにライト・ターン(Heading100)をして約10マイル飛び、更に

離陸するとすぐライト・ターン
ライト・ターン(Heading210)を続け、今飛び立ったばかりの羽田を右下に見て、座間上空をフライ
トレベル190(19,000フィート)で通過、機首を268度に変針し(Heading268)やがて正面やや左に
富士山が見えて来る。更にそのまま飛ぶと名古屋空港上空に達します。 これは実際の搭乗時(九
州方面出張)にも、PCフライトシミュレーターでも、幾度となく経験している私の一番お気に入り
の羽田のデパーチャー方式(ザマ3デパーチャー)です。 (実際には、羽田離陸後すぐにライト
ターンを続け羽田上空を通過し、ほぼ270度で座間をめざし名古屋までほとんど変針しないケースが
多い様ですが)
離陸後、VORからのラジアルをチェックしながら機首方位をコントロールするつも
りでいたところ、「PFD(プライマリ・フライト・ディスプレイ)の真ん中あたりにある白い小さな
四角を常に十字の交点に重なるようにコントロールして下さい」とH機長。 なぬ?! こんなと
ころに白い四角?PFDって姿勢やスピードや高度を見る為のモンで、ND(ナビゲーション・ディスプ
レー)にHSI(ホリゾンタル・シチュエーション・インジケーター/水平位置指示計)とかDME(デ
ィスタンス・メジャリング・エクイプメント/距離測定装置)等を表示させて、(あるいはマップ
モードにして)それに従って計器飛行するんじゃなかったのか?? だいたい、PCフライトシミュ
レーターの747-400の計器パネルのPFDにはこんな四角は現れてなかったじゃないか!、と「新事実」
に愕然としつつPFDをか見ると、中央の十字の交点からややはずれた所に、何時の間にか一辺が2ミリ
くらいの白い四角(中抜きの)が現れていて、どんどん画面の中央にある十字の交点から遠ざかって
行っています。

PFD上に表示されている、上に逃げていこうとする「四角」をすぐ下の十字
の交点で追う
ふむっ、と操縦桿を動かしてとにかく逃げ惑う四角を追い続ける事に集中。 当然外を見る余裕は全
くなし!これじゃニア・ミスしても気が付かないじゃないか!と自分に腹を立てつつもどうする事も
できずひたすら追従。 そうか、NDのマップ・モード画面に表示されるプリセット情報が、こちらの
PFDにもこう言う形で表示されているんだ...なかなか便利じゃないか!、と納得。 変針の度に
四角はぐぐーっと一方向へ流れ様とするので、その時はかなり思い切って大胆に操縦桿を操作しない
と追従できません。
「ソフト・タッチでいいですぇ..」とH機長から初めてお褒めの言葉を頂く。 そういえば、某航
空関係の雑誌でマイレッジ・プランを溜めてフライトシミュレーター(旧式の747)に体験搭乗した記
事(記者は軽飛行機の操縦免許保有者)が載っていたけど、「大型機は軽飛行機と違って慣性が大き
いので操縦桿などのコントロールに緩慢にしか反応しないので、遂オーバーアクションになったりし
て、最後はよたよたの蛇行飛行になってしまった」と書いてあったっけ。 その点、PCフライトシミ
ュレーターを永年486のボロ・マシンでコントロールしてきた私は断然有利だったのでしょう。 緩
慢な反応を予測しつつ、何の違和感もなく、蛇行もなく追従を続行、PCフライトシミュレーターはや
っぱ役に立つと妙に納得。
9. オート・パイロット
気が付くと前方に富士山が迫ってきています。 「じゃ、戻りますか?」とH機長。 グレアシール
ド(正面計器パネルの一番上、窓ガラスとの境目の部分)に手を伸ばすと、オートパイロットの機首
方位設定つまみを回し(クリクリ音をたてて1度ずつ増減できる)180に設定し、オートパイロットを
オンにすると、機体は勝手に大きく左に傾き真南向けてレフト・ターンを開始。 「じゃぁ、これで
好きなように飛んでって下さい」とH機長。 こりゃ簡単、簡単。 このオートパイロットについて
はPCフライトシミュレーターで散々やって来たので驚きはありませんが、やはり実際に大きな巨体が
のたって行くのを目の当たりにして感激一塩と言ったところです。 しばらく南下したところで、方
位設定つまみをクリクリっと100度に回すと、機は房総半島先端の館山をめざして大きくレフトター
ン。

頭の中は既に九州出張から帰りのジャンボの中。 ラッシュ時の羽田へのアプローチは数珠つなぎの
中時として間隔調整の為に進行方向に対し90度近く右や左に誘導管制されることもしばしばで、時と
して急激な高度処理(降下)や減速を強いられる事になります。 初めてスポイラーを使って急速な
高度/速度処理を行っているのを窓から観察した時はそのすざましい振動と共に胸が高鳴ったのを覚
えています。
「あのぉ、スポイラーを使ってもいいですか?」とH機長に尋ねると、「ああ、いいで
すよ。シミュレーターですから何をしても大丈夫ですから」と、何とも緊張感のない回答(!)あ、
この状況では普通でない操作なのか? 構うこっちゃない、コチとら千載一遇のチャンス、出来る事
は何でも試したいんだ、とスラストレバーのすぐ左横にあるスポイラー・レバーを下げます。 が、
下がらない!固い!! 「持ち上げるように引き上げてからさげて下さい」とH機長。 あ、またや
った! レバー類はみんな引っ張ってから倒すんだった! 通常位置がほとんど前側に倒れた状態な
ので、引くと言っても取っ手をつかんで向こうに引き出さねばなりません。 2週間前、突然襲って
来た50肩で、右腕には無理な力は一切入らない私には不可能に近い操作です。 こうなりゃ格好もへ
ったくれ無い、と左手を添えて引き出してやっと手前に倒す事ができるようになりました。 ゴゴゴ
ゴゴ.....聞きなれた音と共にスポイラーの空気抵抗で機体が振動し始めました。 高度と速度
処理のテンポがぐっと速くなりました。
オートパイロットに高度設定もしたので、3,000フィートまでぐんぐん降下をしてくれています。PC
フライトシミュレーターでは、降下の際のスピードを抑える為に、パワーコントロールに結構気を使
っていましたが、オートスロットルが入っているので先程からスラストレバーには一切ノータッチの
ままです。 御宿上空で機首方向を360に変えるぞ、と思っていたのにH機長に「何かやりたい事あ
りますか?」と尋ねられ「エンジン・フェイル(4つあるエンジンの内ひとつ以上を停止させる)を
やってみたいんですが」「それはいいですね。 やりましょう。」等と話している内に、H機長がす
っと手を伸ばして、機首方向設定をクリクリと回し始めてしまいました。 しまった!やられた!
見ると360度にセット。 私の思ってた通りの設定だ! うう...くやしい。
10. ILSアプローチ
ヘディング360、アルティテュード3,000feet、スピード 200knot。 あとはランウェイ34Rのローカ
ライザーをインターセプトするのを待つばかりです。 目は再びPFD(プライマリ・フライト・ディ
スプレイ)に釘付けです。 画面の右端と下端に並んでいる白い線で描かれた一辺が数ミリ程度のひ
し形が真っ白になりました。 「ローカライザー・キャプチュアー」とH機長。 いよいよILSアプロ
ーチの開始です。 離陸時と全く同じ様に画面中央の十字に動いて行こうとする、白い線で描かれた
小さな四角を一致させる様に操縦桿を操作します。 今度は操縦桿を前に押して機首を下げる度にど
んどん重たくなって行きます。 「どんどん下がって行きますから、重くなっていきます。どんどん
トリムを取って行って下さい」とH機長。
操縦桿の左手の親指があたる辺りにUP/DOWN2方向に動く平たいスイッチがあり、これをちょいちょい
と倒してやるだけで簡単にスタビラーザー・トリムが取れます。倒した時間分だけトリム・モーター
が動く感じで操作性は抜群です。 市販の全日空の747のビデオを見てると、着陸した後でスタビラ
イザー・トリムをもとの位置に戻すのに親指でギリギリ、ギリギリ、とクリック音を立てながら何度
も何度も操縦桿についているトリム・ダイヤルを親指で回していましたので、クリクリとダイヤルを
回すものと思っていたのですが、ダッシュ400の当機は操縦桿が重くなる度に親指でスイッチを上に
押し上げ、ちょっと操縦桿を持つ手の力をゆるめて操縦桿がまだ反発しようとしていれば更に上に押
し上げると言った具合です。
ちらりと目の前を見ると、木更津が眼下にあり、東京湾をはさんで羽田のランウェイ33,34L,34Rが見
えます。ランウェイにアラインして流れる進入灯がおいで、おいで、と招いています。 何とも見慣
れたホッとする景色です。 もっともPCフライトシミュレーターでは新設のランウェイ34Rはまだあり
ませんが。 が、それ以上は景色を見ている余裕はもはやなく、後は必死にPFDの画面を見ながら操
縦桿と格闘です。

「ではフラップ下げます」とH機長。「はいっ」「ギアも降ろします」「はいっ」と返事は口だけ。
こちとらILSに追従するので精一杯で、フラップを何度にセットしたのか確認する余裕もなし。 出し
たフラップがわずかなのか、それともアークチェーターで少しずつ出されていく速度が遅いからか、
思ったよりリアクションが無いのが意外です。(PCフライトシミュレーターではPCのファンクション
キーを押した瞬間に展開されてしまう)
ILSへの追従は意外にもうまく行きます。 PCフライトシミュレーターではセスナのクロス十字式の計
器(水平線がグライドスロープ、垂直線がローカライザー)にしろ、747のHSIの指針に平行に流れる
バーを指針と合致させ(ローカライザーとPFD右端を上下するひし形を真ん中に維持する(グライド
スロープ)方式にしろ、正確に追従するのは至難の業です。 ところが、PFD画面中央の十字線の交
点に、流れていこうとする小さな四角を誘導・維持するこの方式は、極めて直感的であり、2次元2方
向の操作を単一視点で操作できるのは素晴らしいの一言に尽きます。 自分でも惚れ惚れする位、見
事にILSに完全に追従、ほとんどコースからフラフラはずれたりしないのに、「自分を誉めてあげた
い」などと...。 H機長も「いいですよ。いいですね。」を繰り返してくれます。
この間にも、「またフラップ下げますよ」とH機長。 「はいっ」 余りその部分に集中し過ぎる為
か、自分が(動かしているのが)四角なのか十字の交点なのか感覚的にわからなくなって、ふら〜っ
と四角が離れ初めました。「おっと!」と反射的に操縦桿を反対操作する始末。 しかし、再びピッ
タリ追従...はずれません。 ジャンボの姿勢も極めて安定しています。 「時々ちらっと前(外の
景色)を見るようにするといいですよ。」とH機長。そうだ、さっきから全然外なんか見ていない!
ふと前を見るとランウェイ34Rが大分目前に迫って来ています。しかもコースはぴったりです!(当
たり前か!)

正面にランウェイ34R、左に34Lが見える。素晴らしく立体的なビュー。
11. 着陸 "Landing"
「パワーを65%にセットして下さい」とH機長。 2人の中央にあるEICASのディスプレーを見ると、パ
ワーは57%位を示しています。 では、とスラストをじわっと前に押し出して65%にパワーを上げまし
た。 「セットしてあるこの速度は超えたく(割りたく)ないので..」とPFDにある速度表示を指し
ながらH機長。 見ると速度は150ノット前後まで下がっている! そしてすぐその下の145ノットの
数字にマークが入っています。 なるほど、あらかじめ計算した最低速度(失速速度+α)がここに
表示されているんだ、と納得。
そう言えば、さっきからずっと操縦桿でピッチ(機首の上げ下げ)だけで高度を制御して来た自分に
ふと気が付く。 PCフライトシミュレーターでは、特にセスナ機などの場合、アプローチ段階ではパ
ワー制御で高度を調整し、ピッチ制御で速度を調整してたのに...。 PFDに集中していたので、
しかしたらH機長がこまめにパワーをコントロールしてたのに気が付かなかったのかしらん...。
多分、ある程度パワーを適当なレベルにセットしたら、あとはフラップの出し方でうまい具合に速度
を殺してきているのでは、と気付く。 いずれにしろ、パワーの設定が速度に素直に反映されている
感じです。 アプローチ速度もセスナ機の倍だし、機体が断然大きいのでこの辺の取り回しは随分違
うんだなと納得。
「One Thousand(feet)!」突然、電波高度計が合成音声で高度を読み上げが始まりました。 おお、
来たっ!この電波高度計の高度読み上げが始まると、もう後には引けない大変なところまで来てしま
たんだ、と迫り来る緊張の一瞬が、いやがおうでも現実に自分の身にに大きくのしかかって来る様で
す。「Nine Hundred!」と、」電波高度計の合成音声の読み上げが続きますが、もう耳には入りませ
ん。 ランウェイは見えるし、もうこれだけ緊張して身構えているんだ! そんなアシストはいらな
いぞ!
「ランウェイに接地すると同時にオート・ブレーキが掛かります。」とH機長。 なるほど、じゃあ
接地と同時にスポイラーがフル展開すると共ににブレーキも全制動が掛けるんだな、ただしスラスト
・リバーサー(逆噴射)だけはマニュアルで操作だな、と瞬間に頭に思い浮かべます。
離陸するまでは、パワー・コントロールは最後まで自分がやるんだ!と粋がっていたのですが、今の
私には、「そんな嘘は誰が言ったんだ!」という感じ。 知らん顔してILS追従に専念して、H機長に
おすがりするしかありません。
ランウェイがもう目前です。 ぴったりアラインしています。 PCフライトシミュレーターで、こんな
に見事にアライン出来た事は一度もなかったんじゃないかと思う程です。 PFDの四角はぴったり十
字線の交点に合わさっています。 地上施設さえ完備していれば自動着陸だってできる訳です。
「ランウェイのあの白〜くなっている辺りを狙って、ど〜んと降ろして下さい」とH機長。ええっ、
狙えったって、そんな.....。 おお..迫って来る。タッチダウンまであと少しだ。 センタ
ーラインにはぴったりアラインしたままだぞ。 直前にはフレアー(機首上げ)をかけなきゃな、と
思ってたら、「寸前に操縦桿を引いて下さいね。少しだけ、1度くらい。」とH機長。「はいっ!」
さぁ、行くぞ...ぐっとフレアをかけます。 「もっと、もっと引いて」とH機長。 ええっ、こ
んなに上げちゃっていいの?! 1度って言ったじゃない! これじゃ上昇していっちゃうよ!!
(この速度では機首上げたって失速するだけで上昇なんてしっこないのに)と言う位上げたところで
ゴトン、とタイヤが接地する音と振動が伝わってきました。 タッチダウン!

H機長がスラスト・リバーサーをかけると轟音をたてて前につんのめるGを感じながら急減速。最後
はラダーペダル上部のブレーキを踏んでやんわりと停止。 ほぼセンターライン上をキープ!
や、や、やった...。 お、お、お...言葉にならない、鳴咽とも感動の溜め息ともとれる声
が漏れると、機長席に座っても違和感の無い様にと着て来た白いワイシャツが、汗でびっしょりと濡
れているに気が付きました。
12. 次の「訓練フライト」へ 再び Take off!
さて、エンジン始動から始まってタキシング、離陸、エンルート、ILSアプローチ、着陸と何とも夢
の様なフルセット「訓練」を体験して、「これでもう死んでもいい」と思ったのもつかの間、神様の
様なH機長は、再びCDU(コントロール・ディスプレイ・ユニット)に次の飛行コースの設定入力を
開始。 う、う、なんて事だ。 こんな事があっていいのか...と感激。 今度はランウェイ34Rか
ら離陸上昇後、リクエストしたエンジン・フェイル(何発かのエンジン故障/停止しての飛行)にチ
ャレンジさせてもらいました。
適当な高度で水平飛行に移ったところで、機体のスリップ(内滑り)やスキッド(外滑り)と言った
横滑りを表示する傾斜計(ボール・インジケーター)が見当たりない事に気付き、H機長に尋ねると
なんとPFDの画面の中の一番上の端に表示されている「小さな三角とその下に接してくっついている
四角形」がボール・インジケーターに代わるものとの事。 横滑りを始めると、四角形のみが左右に
ずれていくとの事。 へ〜え...なぁるほど。 グラスコックピットと呼ばれるダッシュ400では
すべてがディスプレイの中で表示されるんだ、と改めて感心。
さて、いよいよエンジン・フェイルです。4本あるスラストレバーのうち一番右側の第4エンジンのみ
をアイドリング状態に戻します。 意外な程急激なリアクションはありません。 当然ゆっくりと機
は右に傾き始めてきました。 先ほど確認したばかりの横滑り表示を見ると、画面中央の一番上に表
示されている小さな三角形の下にくっついている四角形が、三角形の底辺につけたまま、滑る様に
左にずれて来ています。 ここはPCフライトシミュレーターで鍛えたラダー操作とばかり、左足でラ
ダー・ペダルをぐぐっと踏み込みます。くく〜っ、重たい! 何を操作してもジャンボは重たい!
ラーダーをあてると、四角形はそれ以上左に滑っていくのを止めて、右に戻りはじめます。四角形の
上辺が三角形の底辺に一致する様にラダー・ペダルの踏み具合を調整。 慣性で、すべからく、のっ
たりと反応するジャンボ機のラダー制御は、ちょっとの踏み過ぎで過敏に反応するセスナ機のラダー
制御よりやり安い感じです。 ラダー操作で右翼と左翼の推進力のアンバランスを修正できましたが
機体はまだ右側に傾いています。 これでは横滑りは補正できても右に旋回して行ってしまうので、
操縦桿を左にあてるとロールしていた機体は完全に水平に戻り、めでたく正しく直進飛行を続け始め
ました。 エンジン一発ぐらいなくなったって、全くなんでもない事を改めて実感。

それにしても左足がつらい。 くく〜っと突っ張ったままです。 見かねたH機長が「ラダー・トリム
をとれば楽になりますよ」と、センターペデスタルの最後方にある大きなつまみに手を伸ばし、トリ
ムを取ってくれます。 あ、楽になったと、まるでお医者様に痛み止めの注射をしてもらった様な気
持ちです。 だいたい、ラダー・トリムのある場所はわかっていますが、必死に前にかぶりついてい
る私に、右後ろを振り向いた位置にある、見えないものに手を伸ばせる余裕は無しと言ったところで
す。
「では完全にエンジンを停止させましょう。」、とH機長はスラスト・レバーの下にある第4エ
ンジンの燃料ポンプのスイッチをオフ。 ん、大して変化はないぞ、と思う間もなく今度は第3エン
ジンのスラスト・レバーもスコンと下げてしまいました。 おおっ、来た来た! 再び機体は右に大
きくロールすると共に、横滑り表示も左に滑ってずれて行きます。 くくくう〜っと、左足でラダー
をあてますが、重い! 優しいH機長がどんどんラダー・トリムをとって行ってくれると楽になりま
す。 操縦桿もしっかり左にあてて、再び正しく直進飛行! すごい! 右翼のエンジン全滅で、左翼
の2発だけで飛んで入るとは思えない安定した飛びっぷりです。 思わず「飛べるんですねぇ」と私
が漏らすと、「でも、こちらでは何でもないんですが、今ごろ地上では大騒ぎですよ」とH機長。
お聞きすると、日本航空の歴史の中で、実際の営業運行中にエンジン・フェールした事は一度もない
そうです。 (乗務員だけの訓練飛行中には、昔、一度あったそうです)
この後、再び羽田のランウェイ34Rに着陸。 2回目は最後のフレア(機首上げ)も十分にかけられ、
タッチダウン後は、スラスト・リバーサ(逆噴射)もトライして見ました。
13. 最後の「訓練フライト」へ またも Take off!
着陸後、「今度はどうしましょうか?」とH機長。 「ええっ、まだいいんですか? もうこんな時
間ですが」と時計を見ながら既に一時間半近く経過しているにも拘わらず、一生懸命相手をしてくれ
るH機長に感激。「いいですよ。」とH機長。 「そう言っていただけるなら、是非お願いします」
と申し訳ないやら信じられないやら...実はこの時点でかなり疲れを感じてはいましたが、この
機を逃したら一生もうこんなチャンスはない! H機長が受けてくれる限り死ぬまで飛び続けるんだ
と、更にアプローチの練習をお願いする事とし、「木更津上空あたりから開始できませんか?」と
尋ねると、「いいですよ、できますよ!」と、シミュレーターの設定を担当してくれているOさんに
設定方法を指示、ジャンボ機は木更津上空からスタート、ランウェイ34Rにアプローチ開始。
三度目
のILSアプローチは極めて安定、トリムの取り方もすっかり馴染んで来ました。 ランウェイにぴっ
たりアラインしたままランウェイの端にさしかかり、今度は機首上げ姿勢もピッタリ、完璧です。
と、「はい絞って。 絞って下さい!」H機長。 絞れって?操縦桿を? ん?..その時、H機長は
「あ、そうか!」と言って左手をさっと延ばしスラストレバーを一気に押し出し「ゴーアラウンドし
ます」 あ、な〜んだ。 H機長は、私があまりにも見事にアプローチして行くので(冗談!)すっか
りすべて私が操作するものだと思い、私は前2回と同じ様に、最後のパワー・コントロールはH機長
にやっていただくつもりだったのです。 「絞って」とは、もちろんパワー(スラストレバー)の事
であったのです。 これが、結果的にどれだけ口惜しい事になったことか! この時の私のファイナ
ルアプローチは完璧だったのです。 最後の機首上げも、ランディング・ポイントも。 スラスト・
レバーをスコンと落としさえすれば、完璧なランディングだったのです!!
何故口惜しい結果になったかって?? それはゴーアラウンド後の4回目のアプローチであり、今日
の最後の締めくくりで明らかになったのです! このゴーアラウンド時で、既に2時間近く経過して
おり、私としても体力と集中力の最後を振り絞ったところでありました。 優しいH機長は、これは
惜しい、と同情して下さったのか「もう一度やり直しましょう」と、木更津上空まで一気に機を取り
回してくれたのです。 さぁ、H機長のご好意に応えなくては、と4回目のランウェイ34Rへのアプロ
ーチを開始しました。 とりあえず順調です。 ILSにぴったり追従したまま、ランウェイ目前まで
無事コントロールしてきました。 ランウェイのセンターラインにもぴったりアラインしています。
さぁ機首上げです。 上げたところでスラストレバーを手前に落としてやらなければならないので、
当然今度は左手で操縦桿を、右手でスラストレバーを、と「片手ハンドル」です。

左手を引きました。さぁ右手を下げるぞ、と下げたその瞬間、疲れ切った左手がわずかにふらつき、
地上数メートルで機は若干右に傾きランウェイのセンターラインを右にそれてしまったのです!!
「あんりゃ!!」と、瞬間呆然とした私を見取ったのか、H機長は冷静に自分の操縦桿をさっと見事
に操作、姿勢を水平に戻してくれましたが...私の操縦したボーイング747-400はランウェイを右
から斜め左にだらしなく走って、そして大きくランウェイからはみ出して止まったのです。そして今
日のフライトのすべてが終わったのです。
14. H機長、本当にありがとうございました!
もはやこれまで、と悟った私は「どうもありがとうございました!」と、H機長に心からお礼を申し
上げると共に「おひらき」宣言を行いました。 時計を見ると、なんと2時間を超えていました。
私はなんと言う幸せな男なんだろうと思わずにはいられませんでした。
シミュレーターだからと言って、どこかの電源をプチッと切って終わり、と言うわけには」行きませ
ん。 エンジンを停止して、いくつものスイッチ類を手順に乗っ取って確実に操作しなければ、ジャ
ンボ機は休止する事ができないのです。 この期に及んでも、最後にH機長はチェックリストを取り
出し上から順番に読みながら、ひとつひとつ必要な操作をしたか、操作したスイッチを確認していく
のには驚いてしまいました。 最後に、最後の私の出番が突然やってきました。 「パーキングブレ
ーキ」とチェックリストを見ながら読み上げたのです。 パーキングブレーキは私側にあります。
別に私に要求した訳ではなかったのですが、とっさに「はいっ」と人差し指をかけてギリリ、と引き
上げました。 たったひとつだけ、機長席に座った人間としてお役に立てた、小さな出来事でありま
した。
すべて完了! さぁ、はじめてこれでコックピットを後にする事ができるのです。私は電動シートを
後ろに動かし、うしろを振り向き、2時間振りに操縦席から立ち上がりました、が、そのままがっく
りと床にくずれ膝を着けてしまいました。 重い、足が鉛の様に疲れて重いのです。体も汗びっしょ
りです。 顔もなんだか疲れ切ってむくんでしまった感じです。 そうだよな! 訓練中のパイロッ
トだってここで2時間絞られたらぐったりしてしまうと言うのに、「素人」が良く本当に頑張った!
と言うところだと思いました。

フライトを終えて、疲れ切って汗びっしょりの私と、どこまでも優しいH機長
最後にH機長とコックッピット(シミュレーター)から出ると一緒に記念写真を撮って、お別れです。
ご多忙かつお疲れの処にもかかわらず、よくぞここまでお相手いただき、ただただ感謝と畏敬の念で
いっぱいです。 最後まで常に穏やかで、冷静で、親切で、誠意をもって接して下さって、プロのエ
アライン・パイロットがプロ足り得る所以は、「その高度な知識と技術ではなく、むしろそれを支え
る素晴らしい人間性である」と言う事を改めて学んだ様な気がしました。 そしてその人間性があら
ゆる厳しい環境下・状況下でも的確な判断を下すのであり、飛行機を安全に確実に飛ばす事ができる
のであると思いました。 私が、来世で、エアライン・パイロットになる夢を果たそうとしたとき、
一番問題になるのは、私の「人間性」であろう事を確信した次第です。

H機長、Oさん、本当にありがとうございました!
H機長、本日の企画すべてに尽力して下さった日本航空のOさん、そしてOさんへ私を紹介して下
さり、かつ後席に同乗してビデオカメラを回して下さった渡辺(JR7LNP)さん、私の夢をかなえて下
さって本当にありがとうございました! (一年前のセスナ機での初操縦体験も、今回の 747も、
私の回りの方々のご好意がなければ絶対に実現しませんでした。)
H機長にお送りした「御礼状と当ページの印刷コピー」に対する、H機長からのお便り

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